国家プロジェクト

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国家プロジェクト

―― 大阪 ―― 京セラドームでは、人気歌手「KPM」と人気ロックバンド「アダルトBOY」の異色のコラボコンサートが開催され、1万2千人の観客が詰めかけていた。コンサートチケットは結婚推進機構大阪支部のホームページで格安の値段で抽選販売され大きな話題を呼んだ。むろん全席完売である。 「おい、スキャンを始めろ」 コンサート会場の最上階にあるコントロールルームの窓から、観客が着席したのを見計らって横溝竜二は部下に指示を出した。 「A-1から順にQP-12によるスキャンを開始します」 スキャン開始と同時にモニター上に黒く表示されている座席配置図が左下から赤に変わっていく。操作中の部下の足がわずかに震えているようだ。 数分間モニターを見ていた横溝は椅子から足を投げ出して欠伸をした。 「この分だとスキャンが終わるのはいつだ?」 「ちょうど「KPM」が歌い終わる頃です」 「じゃあオーバーライトは「アダルトBOY」の歌からだな」 一年前に自公党幹事長である父親の肝いりで、結婚推進機構大阪支部の技官として赴任した横溝は未だ大阪弁には染まっていない。 巡視から戻ってきた部下の一人が会場の様子を横溝に報告する。 「横溝技官、座席の並びを男女交互にしたのは、やりすぎでしたね。めっちゃ目立ちまっせ。殆どの客が気付いとりました」 「ふん、後でオーバーライトした時には、それが神の啓示のように思えるはずだ。放っておけ。」
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