遊び

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隆介と関わると、先生のあの優しい手にふれたくなる。 私はあの手で慰められていたのかもしれない。 いつもの放課後の図書室。 女生徒と話す先生を横目に見る。 先生が私の視線に気がつく前に、私は手元の小説に視線を戻す。 先生はチョコをもらっていた。 司書の優しい先生。 誰にでも優しいのかもしれない。 図書室のカウンターにはいくつかのラッピングされたチョコらしきもの。 それでもその手が好き、なんて言うのは私くらいかもしれない。 私が弄べるような人じゃない。 私が甘えて、求めてもいい人なんかじゃない。 私に弄ばれたふりをしてくれたのかもしれない。 私をいい気にさせてくれる、そういう先生の遊びだった。 そう思うほうが容易い。 小悪魔になりたい。 私は読んでいた小説を書架へ戻して、女生徒と話す先生の前を通りすぎて図書室を出た。 この気持ちはなんだろう? 求めても手に入らない人を好きになって。 求めても手に入らない人に甘えて。 満たされないものが積もる。 普通に恋愛すればいいのに。 昇降口で靴を履き替えていると、アンプを通したギターの音が聞こえてきた。 隆介のギターだ。 少し高い音を鳴かせるギター。 初めていったライブハウス。 その次も、またその次も。 ステージでギターを弾きながら、隆介が私の視線に視線を合わせて笑ってくれたその顔が浮かんだ。 見ていた。ずっと。 隆介だけ。 その手を、その顔を、その音を。 私の目から涙がこぼれて落ちて、足元の冷たいコンクリートに染みをつくった。 ぽろぽろ涙はこぼれて落ちていく。 まだ消えない。 隆介を好きな気持ち。 好きで、好きで好きで…。 鈍く黒く広がる胸の痛み。 誰でもいい。 私を手に入れて縛りつけて。 忘れてしまいたい。今すぐに。何もかも。 望むなら…、相手のいない人がいい。
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