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放課後の教室はいつもすぐに人がいなくなって静かだった。
開け放たれた窓の外からは部活動に励む元気な声が聞こえてくる。
たまにまだ校内に残っていた他の教室の生徒が騒ぎながら廊下を走って通りすぎていく。
いろんな音が聞こえるのに、なぜか不思議と静かな一人の空間。
私はその空間が好きだった。
初夏の風に吹かれて、教室のカーテンがゆらりと揺れる。
私は窓際にある自分の席について、図書室で借りてきた小説を読んでいた。
机に肘をついて、ゆっくりと文字を目で追う。
耳に聞こえる音はすべてどこか遠く感じる。
静かな空間。
そんな私の空間は、教室の扉が開かれた音で途切れた。
扉に目を向けると、同じクラスの高畑澪がいた。
「こっちこっち。隆介、この教室なら…」
そこまで澪は私がいることに気がつかずに、扉の外に声をかけ、その視線が教室の中を確認するように見て、私と目が合った。
「あっ、優花。まだ残っていたの?」
私に明るい親しみやすい笑顔を向けて声をかけてくれる。
澪とは高校に入ってから仲良くなった。
私は人見知りをしてしまうほうで、中学の友達とは進学先も違って教室に一人だった。
澪が声をかけてくれた。
その明るくて親しみやすい澪の性格や笑顔はどこか羨ましくも思う。
私はそんなにおしゃべりでもない。
会話も上手くない。
私は澪とは正反対の性格かもしれない。
それでも澪は私と仲良くしてくれる。
「うん。ちょっと本読んでいた」
私は澪に返事をして、その後ろに立つ人を見る。
隣のクラスの目立つ人。
名前は知らないけど知っている。
その背の高さも目立つけど、上の学年じゃないのかと思うような着崩した制服姿も、お洒落に気をつかっているのかワックスで整えた髪も目立つ。
私にはどこか違う世界の人。
「あ、コレ、私の彼氏。隣のクラスの赤城隆介」
澪は私の視線の先を見て、彼の腕に腕を絡ませて抱きついて、そんな紹介をくれた。
どこか照れたように、どこか自慢気に、うれしそうに。
澪がかわいく見えて、なんだか微笑ましい。
「ども」
彼は私に会釈のように挨拶をくれて、私も彼に会釈を返す。
それが私と彼の出逢い。
彼は出逢ったときから友達の彼氏だった。
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