炭屋旅館

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すると魯山人は、 「器は料理の着物ですからね。どんなに姿形が美しくても、その人にあっていない着物、季節にあってない着物を着ていたら、その人の美しさが半減してしまいます。 あなたも今日のその着物はよくあっていますね。 雪景色となった京都の街にあなたの寒椿の赤い花が町を歩く人の心を楽しくさせていると思います。」 コウさんは、魯山人の言葉に赤くそめた。 続けて魯山人は、 「単に食うというだけであったら、太古のように木の葉の上に載せてもよいのでありますが、それをより以上に持って行くためには、容器を選ぶ必要が起こります。茶料理などはよい料理によい食器を求めて、高い美意識から立派な食器をつくらねばならぬようになりました。」 と言った。 コウさんは、魯山人の茶料理の言葉に反応して、 「私は、茶料理の形式で、美しい日本の器でフランス料理を考えているのですが、それがなかなか難しいのです。 西洋の料理は、椅子に座ってテーブルから、ナイフ、フォーク、スプーンを使っていただく文化で進化したお料理、対する茶懐石は、畳の上に折敷をおいて、そこから、お椀、汁物、向付など、器を持ち上げていただくお料理となります。 スープ皿を口に直接付けていただくことはないですが、汁物は、器に口をつけていただきます。 コース料理は、一品一品、芸術的に盛り付けられて、一皿づつ運ばれますが、茶料理は預け鉢はみなでとりわけてからいただきます。 こうまで違う文化のお料理を融合させるのは、無理があるのでしょうかと、疑問に感じ始めているのです。 」 と急に饒舌に話した。
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