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好きって言ったら、終わっちゃうから言わない
たぶん一生言わないと思うの
なら好きなんて気持ち しんどいし手放しちゃえばいいのに
上手くできなくて 君の隣にいるの
どうにもならなくて 君の隣にいるだけなの
講義のレジュメの裏紙にそう書きふと顔をあげる。
ファーストフード店特有の油の匂いに包まれながら俺は隣りを盗み見た。
小綺麗に整えられた黒髪の男がマンゴーシェイクを吸っている。
窓際のカウンター席に俺たちは並んでいた。
ぽかんと硝子の向うを見つめる横顔。
その薬用リップで無駄に潤った唇に視線が吸い寄せられる。
何をそんなに集中して見るものがあるんだろうか。
その男を注視している自分も人のことは言えないけれど。
男は心ここにあらずだ。
その視線の先になにがあるかは容易に想像できる。
目を移せば窓ガラスの向うには綺麗な女子大生が二人歩いていた。
案の定だ。やっぱりな。
俺は気づかれないようこっそりと項垂れた。
女相手に嫉妬するのだけはやめよう。所詮勝てやしない相手だ。
毎回そう考えてもなぜか悔しさがこみ上げる自分のみっともなさが憎たらしい。
すさまじい吸引力で視線を持っていかれている男の名は羽川胡太郎(はがわ こたろう)。
俺の、片想いの相手。
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