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それから優君は私の手をゆっくりと離すと、もう一度「ごめんね」と言った。
「いえ……」
私は左右に大きく首を振り、右手で持っていた包丁をまな板の上に置き、その空いた手で左手を握る。
その手は熱く、なんだか胸も熱い……
すると彼が横から手を伸ばし、たらいに落ちた玉ねぎを拾い、小さなキッチンのため、すこしでも広くスペースが取れるように取り付けているシンク渡しの上にそっと置いた。
「すみません」
「ううん、こちらこそ」
「優君、手を洗ってください」
私は彼が手を洗えるよう、水を出すために水道のレバーを上げた。
「ありがとう」
彼は礼を言うと、背が高いため前屈みになりながら、手を洗う。
そのため、私との顔の距離が近くなる。
彼の端正な横顔が近くにきたことで、胸の鼓動が激しく高鳴るのを感じた。
でもきっと、この音は水を流す音で聞こえない。
彼が手を洗い終わると、私は水道のレバーを下げた。
彼はキャビネットの取手にかけてあるタオルで、手を拭くと「ごめんね邪魔して」と言った。
「大丈夫です」
私が小さく首を振ると、彼は表情を緩めた。
私も同じく口元を緩める。互いの視線が重なるが、今度はキスは降ってこない。
しかし、あまり見つめても欲しているように思われるかもしれないと、視線を下に変え再度玉ねぎを切ろうとするが、彼は隣にいるため落ち着かない。
なんせ私は料理が下手だ。
「あ、あの優君……ゆっくり座っていてください」
そのため、私は彼を見上げてそう言った。
すると、彼は「……そうだね」とややしゅんとするように言う。
私の中に少しだけ可哀想な気持ちがわく。しかしやはり見られたくないので、「何か飲みます?」と言って話を変えた。
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