ラナンキュラス

23/33
186人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
思えば食事はもちろんだが、ここへ来て彼に飲み物も出してあげられていない私だ。 喉も乾いていたはずだと今さら感じる。 彼が「あ、うん。もらっていい?」と言ったため、せめて、食事の前に飲み物を準備するべきだったと、反省した。 「あ、今準備します」 私は再び玉ねぎと包丁を手から離したが、彼が「いいよ、胡桃は作ってて。俺が取っていい?」と言ったため、それに甘え頷く。 彼はこの部屋によく泊まりに来ていたから、勝手はよくわかっている。 逆に私も昔彼が住んでいた家のことはよくわかっていたつもりだ。 優君は慣れた様子で、彼より背の低い食器棚からまず、グラスを二つ手に取り、テーブルに置いた。 何も尋ねられていないのに、私のぶんも用意してくれるのは、彼らしい。 密かに頬が緩むが、彼にはバレていないよう。 それから彼は腰を屈ませ冷蔵庫の扉を開けると、中を覗いた。 冷蔵庫の扉のすぐ裏には、私が買い備えておいた、お茶や紅茶の入ったペットボトルが入っている。 彼の好きなビールも買っておいたが、さすがに昼間からは飲まないだろう。 それでもお茶類を彼が手にするだろうと思っていたのだが、優君はなかなか動かないため、気になった。 少しの間、冷蔵庫を開けたままでいるため、彼に「違うものがよかったですか?」と尋ねてしまうほど。 「ううん」 否定する彼の私を見つめる視線は、何か言いたげ。 そこで私はピンとき、ハッとする。 きっとチョコの存在がバレたのだ、と。 私はせっかく料理をはじめようとしていたが、慌てて彼の側に寄った。 「……お、お茶注ぎますよ」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!