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思えば食事はもちろんだが、ここへ来て彼に飲み物も出してあげられていない私だ。
喉も乾いていたはずだと今さら感じる。
彼が「あ、うん。もらっていい?」と言ったため、せめて、食事の前に飲み物を準備するべきだったと、反省した。
「あ、今準備します」
私は再び玉ねぎと包丁を手から離したが、彼が「いいよ、胡桃は作ってて。俺が取っていい?」と言ったため、それに甘え頷く。
彼はこの部屋によく泊まりに来ていたから、勝手はよくわかっている。
逆に私も昔彼が住んでいた家のことはよくわかっていたつもりだ。
優君は慣れた様子で、彼より背の低い食器棚からまず、グラスを二つ手に取り、テーブルに置いた。
何も尋ねられていないのに、私のぶんも用意してくれるのは、彼らしい。
密かに頬が緩むが、彼にはバレていないよう。
それから彼は腰を屈ませ冷蔵庫の扉を開けると、中を覗いた。
冷蔵庫の扉のすぐ裏には、私が買い備えておいた、お茶や紅茶の入ったペットボトルが入っている。
彼の好きなビールも買っておいたが、さすがに昼間からは飲まないだろう。
それでもお茶類を彼が手にするだろうと思っていたのだが、優君はなかなか動かないため、気になった。
少しの間、冷蔵庫を開けたままでいるため、彼に「違うものがよかったですか?」と尋ねてしまうほど。
「ううん」
否定する彼の私を見つめる視線は、何か言いたげ。
そこで私はピンとき、ハッとする。
きっとチョコの存在がバレたのだ、と。
私はせっかく料理をはじめようとしていたが、慌てて彼の側に寄った。
「……お、お茶注ぎますよ」
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