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花屋には花瓶もあったので、彼の車に似た青色を選び、彼の部屋に二本寄り添うように飾った。
きっと、夜に彼から電話が来るだろう。
彼は何て言うだろうか。
部屋をカサブランカの香りでいっぱいにして、私は空港へ向かった。
行きは不安でいっぱいだったが、今は寂しさばかりが胸を占める。
今度はいつ来れるだろう……
すぐにでも休みを取って、会いに来たいと思う私がいる。
まだシンガポールにいるというのに。
空港に着くといよいよ帰る時がきたのだという寂しさに襲われた。
ブーケを守る必要もないので、ひどく気が抜けている。
荷物を預けた後、ぼんやりと電光掲示板を見上げていると、後ろから肩を叩かれた。
「胡桃」
私を呼ぶ声は優君のもの。
私が振り向くより早く、彼は私の顔を覗き込んだ。
「優君……」
どうしてここにいるのだろう。
彼は仕事なはずなのに……
「少し抜けてきたんだ。胡桃を見送りたくて」
彼は緩やかな笑みを浮かべる。
「優君……」
目の奥が一気に熱くなった。
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