遠い遠い、近くの人

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遠い遠い、近くの人

 プロローグ 魔法のある日常  魔法。  それはお伽噺の中だけにある不思議な力ではない。  知る人こそ少ないけれど、現実に確かに存在する、本当は誰もが使うことができるはずの力。想像の力だ。思い描いたことを現実に引き起こす不思議な力。  魔法が使える条件はたった一つ。  心の一番深いところで、魔法を信じていること。  人が生まれてから自我を持ち成長していく過程で、たったそれだけのことができれば魔法を使うことができる。けれど現代は、たったそれだけのことが難しい時代となっている。  情報が溢れ、自分が知りたくもないようなことでもなんでも分かってしまうような現代。進化した情報端末は、本当に片手間で人を世界とつなげることができるようになった。それは確かに日常生活のあらゆる面で役立っているし、便利な時代になったことは間違いないけれど、この世界から不思議が一掃されていく要因にもなっている。  死んだはずの人の姿を見た。  首から上がない人に追いかけられた。  空を高速で飛ぶ不思議な円盤を見た。  少し前、自分で見たものがその人にとっての何よりの情報だった時代なら、それは確かにあった不思議なことだった。  でも、情報が溢れた今ではそれは違う。ただの見間違い、夢幻、聞き違い、勘違い。そういうふうに世間一般であり得ないとされていることは、ありえないこととして処理され、そういうふうに考える様に強要される。  世間からズレた考えの持ち主は、周囲の集団からはじき出されて、社会の中でまともに生きていくことすらできない。だから誰もが自分の見た情報よりも、周りに溢れる情報を信じ、その常識に従って生きていく。  魔法なんて存在しない、そんな考えも常識のうちの一つ。  それでも、魔法も魔法使いも、確かに存在する。  そして魔法使いたちは魔法を使って、人々の生活をひっそりと守っている。
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