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「乃愛様、あのご婦人のお名前はお聞きになりましたか?」
「...あ、聞いてないやっ!」
乃愛は後部座席で一人、「あー!私ったらバカだわー!」と、おろおろしていたが、総司はそんな乃愛をバックミラー越しに見ていた。
「乃愛様、私がお渡しいたしました鍵の部屋へご案内致しますが、よろしいでしょうか?」
「へ?あ、はい...」
乃愛は総司に言われ、預かった鍵をポケットから取り出し、老婆から貰ったキーホルダーを鍵に取り付けた。
「ーっ!可愛い~...」
「...」
総司は無表情だったが内心焦っていた。
「乃愛様、アパートへ着きましたら、庵様へ連絡したいのですが、よろしいでしょうか?」
「えっ!!なんてっ!?」
乃愛はまた自分が逃げ出した事を言うのではないかと焦り、総司に「何を庵さんへ連絡するのっ!?」と、運転している総司に身を乗り出して聞いた。
「『遅くなります』と、伝えるだけです」
「あ、ならいいですー...あーよかった...焦った!これ以上庵さんに何かされたら嫌だもん!」
乃愛はホッとして、座席へ深々と座り、後部座席の窓を眺め、移り変わる景色を眺めていた。
「...」
再びの沈黙。
総司は早く庵に連絡をしたかった。
何故ならー...。
(あのご婦人、見覚えがあると思った...やはりそうだったっか...これも運命なのか?)
総司は無表情のまま、ハンドルを強く握り、急いでアパートへ向かって車を走らせた。
(乃愛様は知らない...)
赤信号になり、車を停止させると、総司は乃愛には気づかれない様に奥歯を噛み、固く目を閉じた。
(あのお方は、桐島渚様の御母様...華恵様っ!)
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