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もう一生この村から抜け出せないのかもしれない。
血が出るまで身体中をかきむしりたくなるような夜に、彼は立っていた。
宵闇にまたたく赤信号、村でたった1つの信号機の下で。
深紅のベルベットに白のレースを張ったタキシード、コルセットのように編み上げリボンにカメオのトップハット。
年の数ほどバックルのついた膝丈までの黒のブーツ、銀の獅子頭のステッキ。
右の耳には銀の龍細工がからみつき、左の手の五指から甲にかけて凝ったスレイブチェーンがきらめく。
焼き杉の古屋の壁一面の錆びついた昭和のホーローの看板を背に、彼はささやいた。
「こんばんは」
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