四つ辻に立つ女

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四つ辻に立つ女

 公園裏の十字路には女の幽霊が出るという。夕方の、五時の鐘が鳴る頃に行くと、すうと立っているのだそうだ。どんなにやんちゃな子供でも、その時間は大人しく別の道を通るという。そんな場所が、自分の住む町にあるとは知らなかった。それで、ワクワクしながらカメラを持ち、その場所に行ってみたのである。  秋も半ばであった。橙色に染まる道には 人っ子一人いなかった。車も通らない。閑散とした道に、電信柱の影ばかり、斜陽に引き延ばされて長く伸びている。  問題の十字路は、ひっそりと存在していた。苔蒸したブロック塀の、その傍らに立つカーブミラーには赤錆が浮いている。ひそとも音が聞こえないのが気になった。この時間だ。夕飯の仕度をする音だとか、帰宅中の子供の声が聞こえてもいいはずなのに、まるで死に絶えた町のようにしんと静まりかえっている。  その静寂を打ち破るように、五時の鐘が鳴った。物寂しげなメロディが、耳の奥で木霊する。
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