40:ユーラの家出 1

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 テイラー。長男だなとルアンナはユーラから散々聞かされた兄弟情報を頭から引き出す。女遊びが激しい兄たちのひとりで、結婚しているのに二人妾がいるという。年齢は三十代手前。若気の至りで済めばいいのだが。  しかしテイラーは、意外と他人に対する礼節はしっかり身にまとっていた。丁寧に礼をすると、 「巻き込んでしまい恐縮です。そちらには全く関係のないお話ではありますが、ご説明させていただいても?」 「そうだな、ここまで来たら説明してもらおうか」  クルスは今家の中にいて、ユーラの相手をしている。ルアンナはテイラーを家へ上げた。 * 「に、兄様……っ」  兄の顔を見た瞬間、猫のようにうなってユーラがクルスの後ろへ隠れる。同時に白猫ラシィも背中の毛を逆立ててテイラーを威嚇した。 「あっちが私の夫のクルスだ。クルス、こちらの御仁はユーラのところの長男のテイラー殿」 「ああ、どうも」  クルスは気軽に手を挙げて応える。平民同士なのだから本来、この程度でも許されるのである。 「ユーラ……」  テイラーは妹に近づこうとするが、ユーラはクルスの後ろから出てこない。代わりにラシィが、今にもテイラーに飛びつきそうに構えている。 「ラシィ、飛びついちゃだめだよ。――テイラーさん、すみませんがユーラとの直接の会話より先に、俺たちに説明してくれませんか」  クルスがラシィに呼びかけたあと、テイラーにそう頼んだ。     
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