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「全然。むしろ嬉しい。さっそく、明日見に行ってみる?」
「ほんと?えへへ、嬉しいな。内側に征治さんのイニシャルを彫りたい」
互いの指に揃いの愛のしるしが輝くさまを想像して、口元が緩む。
「ふふ、これで会社の女の子も征治さんにちょっかい出せないぞ」
気持ちまで緩んで心の声がこぼれ出た。
「会社の女の子?」
征治さんがキョトンとする。
ああもう、この人はいつも自分の方へ向いているベクトルに対しては、かなり無頓着なんだ。
そのくせ、きっと返したシール容器には、そつなく洒落たスイーツでも付けて返しているに違いないんだ。
「よし、最後の容器には僕が焼いたクッキーでも詰めてお返ししよう。負けないぞ」
「ん?クッキーが作りたいの?一緒にやってみよっか」
にっこり笑いながら僕の耳朶を弄って遊んでいるけど、征治さんが作ったんじゃ駄目なんだって。むしろ逆効果だってば。
「征治さんは、僕のだ」
そう言って首に噛り付くと
「ん? うん。陽向も、俺のだ」
とキスと共に返ってきて、満足する。傍から見れば、いい歳をしたとんだバカップルだろうけど、嬉しいんだからいいや。
夕飯の準備も、間に何度もキスを挟んで馬鹿みたいにイチャイチャしながら、二人で作った。
そうやって、ガス抜きをしなければならなかったのだ。
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