きみへの手紙

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実はこの夢で見た事件が気になって、本当に過去の事件を探してみました。僕にはこれがどうしてもただの夢だとは思えなかったからです。大野さんなら知っていると思いますが、僕が図書室のパソコンで調べていたのはこの件でした。しかし、やはり見つかりません。正確な年代も地域も名前もわからないので、これ以上探しようがありません。 だけど、現実の世界では、服装や髪型こそ違えど、背格好や顔はそのままの大野さんが、彼女と同じように僕をじっと見つめている。こんな偶然はあるのかと思いました。 前世の記憶なのではないかと疑っていた僕にとって、きみの存在はひとつの希望でした。きみも同じ夢を見ているのではないかと。だから前世と同じように遠くから僕を見つめているのではないかと。 なので、ラブレターを読んで心臓が止まる思いでした。 「なぜだかわからないけれど、私はこの人を知っている気がした」 この言葉がどれだけ僕の心を貫いたか想像できないでしょうね。だけど本当に僕はその場で卒倒しそうになったのです。やっぱり大野さんも同じなのかと、急いで手紙の続きを読みました。 しかし、大野さんの手紙はそれ以上のことは書かれていませんでした。あの夢での不穏な様子も一切感じられません。本当にいわゆる普通のラブレターでした。そうなると、ひとつの可能性が浮かぶのです。きみは目覚めた瞬間にその夢を忘れているだけではないかと。以前の僕のように。 だから僕は一か八かの賭けのつもりで、この手紙を書きました。気味悪がられることは覚悟の上です。それでも伝えたいのです。 この内容を読んで、何か思い出しませんか? もし、もしも大野さんが僕と同じ記憶を共有していることがわかったら、そしてそのことを僕に話してもいいと思えたら、もう一度お手紙をください。 たとえ今世でもきみが僕を許せなくとも 僕の心はあなたのものです。
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