足跡

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「アナタ、どうしたの?」  なかなか出勤しようとしないので、背後から妻に声をかけられた。 「おい見ろ。なんだろこの足跡」 「足跡?」  妻も一緒になって道路に視線を落とすも、「どこ?」と一言返すだけだった。 「どこって、変な足跡が向こうまでずっと続いてるじゃないか」 「アナタ、大丈夫? 今日はお仕事休んだら?」  どうやら妻には見えていないようだった。いや、妻だけではない。通学途中の学生も、犬の散歩中の老人もまるで気にしていない。そればかりか、スマホで撮影を試みても画面にさえ映らない。  気味が悪かったが好奇心が勝り、俺は会社に行くのも忘れ不可思議な足跡を辿った。  足跡は近所のスーパーや喫茶店に入り、美容院にまで出入りしていた。そして気づけば家の前に戻って来ていた。  次の日も、その次の日も足跡はついており、微妙にコースを変えていた。
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