上ヘまいります

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上ヘまいります

三寒四温と呼ばれる季節も過ぎ、妙に生暖かい春の日だった。 むしろ蒸し暑いくらいのこんな日は妙に炭酸のきいた飲み物が飲みたい。 ビールは苦いので苦手だし、だいいち酒が飲めなかった。 サンダルを引っ掛けて、隣のコンビニまで夕涼みがてらに出かけることにした。 むっとするマンションの玄関扉を開けると、涼しい夜風が吹いていた。 5階エレベーターホールで下へのボタンを押すと、エレベーターが下から上がってきた。 エレベーターの窓からは見えなかったが、中にはすでに、男の子が乗っていた。 私は、一階のボタンを押そうと表示を見ると、すでに八階と九階とRのボタンが押してあった。 私は舌打ちした。悪戯かよ。 エレベーターはかなり古いタイプで、下から1、2、3と一列にボタンが配置してある。 「上ヘまいります。」 先に乗り込んだほうが優先か。 一瞬、そんなことをボンヤリと考えたが八階についてすぐにおかしいことに気付き、勿論男の子は予想通りその階では降りなかった。 この子は、せいぜい見た目は小学一年生かそれ以下だ。 九階にエレベーターが着くまでやけに長く感じられた。 九階に着くや否や、私は開のボタンを連打して、慌てて転がるように九階のエレベーターホールに向かって走り出た。 男の子は、エレベーターの窓にべったりと張り付いて、一人エレベーターで屋上に向かうと、なにやら私に呟いた。 「ざ・ん・ね・ん」
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