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「彩さんのことはもうなんとも思っていないの?」
単なる元カノとは言っていたけれど、いまだにふたりきりで会う仲なので不安は消えない。
太一がテーブルの端にある灰皿に手を伸ばし自分のほうへ寄せた。
煙を吐き出すと、そのまま唇をとがらせ仏頂面で逆に質問をしてくる。
「なんで俺が彩を好きだって思うんだよ?」
あきらかに不服そうな顔だ。
「抱き合ってたくせに……」
「この間見たことなら気にするなよ。あいつがまた情緒不安定になっただけだから」
「じゃあ太一はそのたびに、彩さんにああいうことをするの?」
彩とふたりで会ったとき、太一はまたあんなふうに彼女にやさしくするのかと思ったら、なんとも切なく苦しい。
「もうしないよ」
「本当にできるの? わたしと一緒にいると、彩さんはまた情緒不安定になるんじゃない?」
「なんでそう思うんだよ?」
「彩さんは太一のことをすごく大切に思ってる。わたしのことを太一に近づけたくなくて必死だった──」
そこまで言って、志穂は余計なことを言ってしまったと口をつぐむが、太一がそれを聞き流すはずはない。訝(いぶか)しげな顔を向けてきた。
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