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なかゆびひめ
「学校の裏の、小さなお墓の前を通る時はね。親指を隠しておかないと駄目なんだ」
私は、よく言えば自然に囲まれた、悪く言えば田舎の、小さな町で育った。
娯楽の無い町であったから、近所の皆で集まっては、野山を駆け回ったり、夏になれば肝試しや怪談の真似事をしたり、遊びと言えばそんな風だった。
「隠さないとどうなるの?」
「なかゆびひめに、目をつけられて、見つかっちゃう」
この話を聞いたのは、小学校五年生の頃である。
親指なのに中指姫に狙われるのはおかしい。皆がそう囃し立てても、懐中電灯を逆さにして顔を照らし、唾を飛ばす男子は真剣だった。
「なかゆびひめは、昔この辺りで首を絞められて死んじゃった子なんだよ。だから、もし見つかったらそれとおんなじに、隠せなかった親指で、こう」
親指を喉元に押し付けてみせたその仕草が、妙に生々しくて、場はしんと静まった。
それから、じゃんけんに負けた四人でその場に行ってみたりもした気がするが、どうなったのだったか。
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