183人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
呼吸が乱れているのか、泣いているのかわからない声が意識に届いた。
そういえばこの部屋には哲也がいたはず……とぼんやりした記憶がよみがえってきたころ、まさに彼は言い放った。
「俺のせいじゃない。俺は、悪くない!」
そんなセリフ、今までドラマや映画でしか聞いたことがない。
悪いことをしたのに、本当にそんな言い訳をする人間が現実にはいるのか……と思ったとき、散らばったものをかき集めて哲也があたしから離れた。
体中が痛くて、かすんだ視界で天井の汚れが見えるかと目を細める。
慌てて鍵を開け、哲也が部屋を出ていった。
まぶしいと思った瞬間、「きゃっ」とか細い声が廊下で響いた。
廊下で哲也がだれかと鉢合わせでもしたのかと思ったら、たった今明るくなった部屋に影が差す。
「……美弥?」
凍りついた声は──賢治郎のものだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!