白線

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白線

 マンション暮らしなのだが、最近同じマンションや近所の子供達が駐車場を遊び場にしている。  危ないからそれとなく注意したのだが、効き目はまるでないようだ。  親の方針で外で遊べと言われているのだとしても、近くには公園があるし、学校の運動場でだって遊べる。そもそも駐車場なんていう何もない場所で、いったい何をして遊ぶというのか。  かくれんぼや鬼ごっこだとしたら、本当に危ないことこの上ない。だから走り回っている姿を見たら、今度こそもっと厳しく注意しようと思っていた。  そんなある日、たまたま出先から戻ったら、いつものように子供達が駐車場内をちょろちょろしていた。だが、予想に反して走り回る子は誰もいない。数人が一塊になってゆっくりと駐車場内を移動しているのだ。  あれはいったい何の真似事なんだろう。  怒る以前に行動の不思議さに意識が向き、じっと見ていると、移動する先々で、子供達は駐車場に落書きをしているようだった。といってもその落書きは、白いチョークでいぴつな円を描くというだけのものだ。  それのいったい何が楽しいのか。そもそもどうしてそんなことをしているのか。総てが気になりすぎ、思いきって、俺は子供達に何をしているのかと尋ねてみた。 「あのね、ここの駐車場、いっぱい人が寝てるんだ。でもそれは僕にしか見えなくて、みんなに言っても信じてもらえなかったんだ。でも、こうして寝てる人をチョークで囲んでみたらみんなにも見えるようになったんだ。それからは、みんながこの人達を踏んだり車で轢いたりしないように、寝ている人達全員をチョークで囲んであげてるんだよ」  にこにことそう告げられ、俺は駐車場内を見回した。  今まで気づかなかったが、あちこちにたくさんの白いいびつな円がある。しかもその中に、ぼんやりと人影が浮かび上がっているのが見える気がした。  これ全部、人が…人の形をした何かがいる場所ってことか? 俺にはろくに見えないけど、この子達は全員、きちんとそれが見えてるのか?  遊び半分に囲んでないで、親に話してしかるべき筋に相談してもらえよ。というか、俺くらいの見え方で親は信じんだろうか。  なんにしろこの数だ。いったいこの駐車場でどんな惨劇があったんだろう。…そんなことを、大量の白線の図形を見ながらぼんやりと思った。 白線…完
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