花の色

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 窓を開けると、秋の匂いを含んだ風がふわりとはなこの髪をさらった。  喧噪から遠ざかった放課後の音楽室は、どこか物寂しくて懐かしい。  午後の光を浴びながら窓枠に肘をついて、はなこは三階の高さから地上を見下ろした。  私立空高学園の南東端に位置するこの特別教室棟は、書道室や家庭科室などの専科教室を詰め込んだ校舎である。  本来であれば部活動で人の出入りが多くなる時間帯だが、コンクールが近いとかで音響設備の整った大教室に籠った吹奏楽部が不在のため、音楽室には人っ子一人いなかった。 「こんな所にいたっ!」  突然、静謐だった空間に大きな声が響き渡った。  この数ヶ月ですっかりおなじみとなった、安平(やすひら)ダイチの声だ。   「もー、探しただろ! 放課後はいつも教室で話すって約束なのに、何だって今日に限って音楽室なんかに……」  どかどかと近づいて来たダイチが窓辺に立つはなこに近づいてから、ふと窓の外を覗いて言葉を飲み込む。 「ああ」  感嘆の声を漏らして、ダイチが両目を細めた。 「あれを見てたのかぁ」  眼下に臨むのは特別教室棟の裏手にある、裏庭だ。  庭と言っても切り開いた竹林が目前まで迫っているので、大したスペースはないのだが、その猫の額ほどの空間に、はっとするほど鮮やかな赤い花が咲き乱れていた。 「まんじゅうさげて、だっけ?」 「何それ」  脳内で曼珠を饅頭に変換したに違いない、ダイチの言葉に思わず吹き出す。
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