夜に始まる恋

7/9
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 待ち合わせの日は、夕方から雨になった。  約束の時間より早く着いた私は、傘をさしたまま暗くなっていく空を眺めていた。  これまでの出来事がすべて今につながっているのだとしたら、やっぱり偶然なんかじゃなかったのかもしれない。  私は、目を閉じる。  彼の訪れを、感じたかったから。  目を閉じて、その香りを待つ。  甘いムスクの香りが、訪れてくれるのを。そして優しい声が、語りかけてくれることを。  予感が届く。  新しい恋の、始まりの予感が……  私は、ただ彼が来るのを待っていた。  向かいの電気店に並んだテレビが、同じニュースを繰り返し流していることなど知りもせずに。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!