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学校から家まではそんなに遠くないから、少し話している間に着いてしまう。
大好きな人と歩く時間は、いつもの感覚以上に短くて、あっという間に過ぎていくんだ。
「あ、もう着いたね」
最近は、雨の日しかゆっくりと話していない私たち。
貴重な時間ほど、すぐに終わってしまう。
楽しい感覚と、そうじゃない時間の感覚は、どうしてこんなに違うんだろうね。
「また明日ね」
そう微笑むのがせいいっぱい。
明日も雨が降る保証なんて、どこにもないから。
でも──。
「綾、いつもありがとう」
いつもとは違う言葉。
理解できないまま、優馬を見つめることしかできない。
「大好きだよ」
いつも以上に優しい声。
いつもより近い場所に、優馬の顔が近づいてくる。
体がしびれてしまったように、全然動かない。
今までにない展開に、頭も体もついていかなくなって……。
まるで、スローモーションのように、ゆっくりと頬に落とされた優しい唇。
それがキスだと気づいたのは──
「じゃあ、また明日の朝、迎えに行くからな」
そう言うだけ言って、家の中に消えていく優馬を見送って、しばらく経った後。
私は雨の中、優馬が消えてしまった家を、立ち尽くしたまま見つめていた。
キスの余韻に、飲まれたままで。
降り続く雨の音さえ、私の耳には届かない……。
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