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駅から出てくる
キミを見つけて
小走りに近寄った
『ねえ
何年ぶりかな』
その言葉は
喧騒にかき消されて
キミは答えを
くれなかったけど
それでもよかった
会えたことが
ただ嬉しくて
寄り添うように歩く
大人になった
キミの横顔は
前に会ったときより
ステキに見えるよ
前に来たときも
キミと二人だったね
覚えているかな
花火大会がメインの
地元のお祭りに
二人で浴衣を着て
遊びに来たよね
二人だってことが
すごく嬉しくて
いつも以上に
はしゃぐ私を
優しい瞳で
見てたキミを
今でも鮮明に
覚えているよ
美しい花火の余韻に
浸りすぎたあの夏の
最期の時間……
二人を隔てたのは
アルコールに呑まれた
「誰か」の車
何が起きたのか
分からないまま
私の時間は
止まったんだ
ああ そうだよね
声が聞こえないのは
喧騒のせいじゃなくて
私が死んでいるから
キミに聞こえないんだ
あの日を
やり直すように
ゆっくりと
歩いてくれる
ねえどうして?
私はもう
ここにはいないのに
私の歩幅に
合わせてくれるの?
ねえどうして?
打ち上がる花火
賑わう人の波
一人で花火を
見つめる
キミの隣で
私も一緒に
見つめている
前と違う状況
だけど
目に映る花火は
同じだね……
どんな思いで
キミはこの花火を
見ているのかな
私は見てしまった
花火から
視線を外して
キミの横顔を
見つめたときに
静かに
流れ落ちる
涙の軌跡を
声も出さずに
ひっそりと
堪えるように
キミは泣いていた
笑顔あふれる
花火大会の会場で
ただ一人キミは
胸を痛めてるんだね
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