環状線のエロス

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 山手線にノルマは揺られている。黒のスーツに黒縁メガネで角席前の吊り革を握り、足元に大きなキャリーバッグを置いている。スーツの中には白のブラウスを着、バリリと糊の効いた大きな襟が、出来る女性を演出している。  池袋駅から最後尾車両に乗り込み、内回りで二駅過ぎようとしている。新宿駅に着いたところで、ノルマは腰の高さほどのキャリーバッグの取っ手を右手でギュッと握り、移動を始めた。  列車が動き出し、前後左右、あるいは斜め、上下にも揺れるなかをゴロゴロと音を鳴らし、前の車両へ移動する。ポリカーボネート製の青のキャリーバッグで、底に四つの大きなタイヤが付いているが重労働だ。  揺れる連結部を渡るときは、スピードを付けて段差を越える必要があり、力とコツがいる。飲み込みの早いノルマは二つ越えると要領をつかみ、三つめからは軽々と車両を前へ、前へと移動していった。
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