牡丹雪

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当の志乃は我関せずで、空に向かって目を閉じ、両手を伸ばしている。 「いや何やってんだかねえ志乃さん、この寒空に」 「牡丹の花が、顔に落ちて来るの。 ふわっとして冷たくて、気持ちいい」 「いやせっかく退院してきた帰り道に、風邪ひいて病院に逆戻りするつもりかねえ、あなたは。 ほら、帰りましょう」 そのまま空に溶けてしまいそうな志乃の手のひらに、 高科は自分の手を重ねて、ゆっくりと引き下ろした。 「んもう! ロマンがないんだから、あなたは。 だから学者って嫌い!」 志乃は目を開け、高科を睨む。 「いや志乃さんよりロマンチストだよ、私は。 ただ、今はTPOを優先してるだけでねえ」 したり顔で志乃を覗き込み、笑いかける高科。 志乃は唇を尖らせながらも、高科が重ねた手を、そっと握り返した。
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