370人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
「あのとき、言ったことは俺の最善だったと思っている」
てめぇ!
「ただ、俺の最善が庸輔の最善じゃないし、俺の最善が間違う場合もあるんだと気づいた。だから、俺の最善を押しつけて、ごめん」
お前、本当にやっかいな性格してんなぁ……。
溜息を漏らし、俺は白石の手を自分の腹に当てた。
「保が言ったこと、聞こえない時期でよかったな」
白石の顔が歪み、涙が盛り上がってくる。
「俺も妊娠したこと、言わなくて悪かった。こいつの父親は保だけだ。お前のこと、不充分だなんて、思ってない」
とたん、白石が号泣した。
俺が強く抱きしめると、幼馴染みはしがみついてきた。
白石はずっと、こうやって泣きたかったのかもしれない……。
泣き止んだ白石を風呂に入らせ、俺は昨日準備した野菜と肉をフライパンで焼き、大皿に盛った。風呂から出てきた白石は料理を見て、豪快だなぁと笑った。焼き肉のタレを大皿にどばどばかけようとし、白石に力強くとめられた。
ベランダから見える空は暗い。
那須さんに咎めないよう頼みはしたものの、小塚達は無事だろうか?
「食べないのか?」
白石が焦げた肉を口に運ぶ。
「食べる。食べるけど」
スマホがバイブした。
知らない番号からだ。
俺は基本、知っている番号しかでない。
放っておくが、バイブはやまない。
「出た方がいいんじゃないか?」
白石に言われ、迷いながらスマホを耳に当てた。
「庸輔さん?」
「小塚君?!」
なんで、俺の電話番号を知ってんだ?
無事でよかった、と小塚君。
俺達も無事です、と遠くで小塚とは違う男の声。
俺は、よかった、と胸を撫で下ろす。
「庸輔さんのおかげで退学は免れそうだ。ありがとう」
「礼を言うのは俺の方だ。本当にありがとう」
「俺達、庸輔さんの子どもに紹介してもらえる?」
「もちろん」
「じゃあ、近々、会いに行く」
「え?」
「俺のスマホの電話番号、画面に出てる?」
「ああ」
「登録しといて。じゃ、白石さんによろしく」
一方的に電話を切られ、取り残される俺。
会いに行くって、部屋へ?
最初のコメントを投稿しよう!