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丸の内の金曜日は慌ただしく、やけに殺気立った人たちが行き交う夜を歓迎した。 どこかに向かって急ぐ人の波をかき分け、和也は1人で近くのホテルに止めてあった愛車のもとへ歩いた。イヤホンからはハイテンポな洋楽が足の歩調を管理している。 今から女を迎えに行く。 気になる男が車でオフィス近くまで迎えに来る光景はどことなく将来への期待と、パートナーとしての正当性を訴えるもののはずという実に浅はかな考えを携えている。下心は120パーセント。 おもむろに鍵をポケットから取り出し、車のドアを開けた和也は一度乗りかけながらも再び車から降り、微動だにしないその金属の塊を3歩下がってちょっと眺めた。 珍しく一台も車がいないホテルの駐車場にひっそりと佇む98年製の996ポルシェカレラは改造こそしてはいないものの、低いエンジン音と洗練されたボディが人目をひく。 「奈央が見たら驚くかな」と、和也は態とらしく呟いてみた。 奈央はつい最近出会ったばかりの女で和也と同い年だった。つまり27歳。 出会い系サイトの写真では大したスペックを感じさせなかったが、奈央は女性としての魅力を完璧に備えていた。とにかく胸は膨らみがはっきりするほど大きく、童顔で身長も160センチ。ロリ好きにはたまらない。 すれ違う男は必ず胸元に視線を送ってから見てないふりをかましてその場を立ち去る。 その女を今日いただく。 デートとしては3回目だが、2回目でキスまで行った。 明日は休み、奈央は一人暮らし、車はポルシェ、こっちは大企業勤めのイケメン。条件は完璧。 和也にとってはいつも通りのフィニッシュ。 仕事は全くできないのにプライベートや女関連になると妙に手際のいい、典型的なクソ野郎だった。 エンジンを静かにかけ、和也は寒い丸の内の雑多に美しい重低音を届けた。
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