陽炎に消える

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花咲く春が過ぎ、瑞々しい若葉を見る季節になると、夏の近さを感じる。 忙しい梅雨の時期が過ぎ去るのはあっという間で、私の鈍い痛みなんか置き去りにして夏はやって来る。 この夏が終われば、秋になる。 暑くて苦痛でしかなかった風に涼やかさが乗り、蝉の鳴き声も遠くなれば、否応なく秋が近づいてると感じる。 10月は諌山君の挙式予定。 その日が来れば、私の奥にくすぶる想いも消えて無くなってくれるのかな。 そんな事を考えていた時、突然諌山君が訪ねて来た。事前の予約は無かったし、彼女の姿も無い。1人で来るなんてはじめての事だった。 資料のファイルを手にしてサロンへ出ると、諌山君が私の姿を確認して立ち上がった。少し離れた席にいたので速足で近づくと、軽く一礼する。 「お久しぶりです。どうされましたか?」 とりあえず丁寧にそう言うと、テーブルにファイルを置いた。 思った以上に冷静に振舞えていると思うが、内心は全く逆だった。
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