寂しさ

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 手袋が欲しいの、と彼女は言った。  それから少し遅れて、お金は払うから、とそこへ付け加えた。まだあどけなさの透けて見える顔立ちだった。幼女は脱したものの少女にはなりきらない、蛹のような不確定性。目は丸く大きく、小さな鼻が可愛らしい。重みを増した長い黒髪の上に、真っ赤な毛糸の帽子がしっとりと濡れている。よく見ればそこへ落ちる雨に雪が混じっていた。どう見ても積もらずに消えるその質量が、余計に素手の私を凍えさせた。  私は手袋を持っていなかった。  私は人の流れを避けた。通りの真ん中に突っ立っていれば邪魔になる。とはいっても、もう決して早い時間ではない。すぐそばの、閉店後の電器店の前へ移って、大きなシャッターの前に彼女と並んだ。傘を差したまま、私は彼女の目をのぞき込んだ。彼女は怯えていなかった。黒い瞳がまっすぐに私を見た。ただ、僅かな疑念だけがその目にあった。彼女は何かを求めて期待していた。  だが、私は手袋を持っていなかった。
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