二人だけの

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   小宮加奈子は美人だった。    五年ぶりの新卒募集で彼女が入ったきた時には、誰もが顔採用だと疑わなかった。面接一回、ただ一人採用決定権のある社長の『ど真ん中』の顔だったのだろう。彼女の仕事ぶりはまあ真面目だったからよかったものの、業績不振だというのに社長の頭の悪さにはほとほと呆れる。  しかし社長だけではなく、彼女は誰がどう見ても完璧な顔立ちをしていた。  美人というか、どこぞのアイドルのように可愛かった小宮加奈子は、目はぱっちりとした二重で唇はいつも艶めき、髪は勝手に光り輝いていた。しかもそれを全くひけらかしもしない地味な性格だったものだから、彼女が新卒一年目でひっそりと結婚した時は、何人の男性社員が涙を飲んだか分からない。  その相手はうちの社長など比較にならない、大豪邸に住む地主のじいさんだ。 「馬鹿馬鹿しいな。女は金持ちと結婚すれば勝ち組だ」 「それにしたって、相手は六十ぐらいだったか? 早く死んでくれて、今頃小宮はほくそ笑んでるんだろうな」  どこからどう情報が漏れているのか知らないが、どうやら死因は進行がんだったらしい。発覚してからあっという間のことだったという。  俺はビールを飲み干した。そして三杯目もビールを頼んだ。  これは祝杯なのだ。 「お、いいところに」  同僚がにっと笑った。まるで躊躇無く、女が一人居酒屋に入ってくる。それは坂口梨沙だった。  
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