二人だけの

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   坂口は、小宮の代のもう一人の新卒だった。女でただ一人営業をしている彼女もまた、多忙で終電を逃したのだろう。  こちらと一瞬目が合ったが、彼女はすぐに視線を外し奥のカウンターへと入っていった。  なんだあの態度、と彼女に聞こえるように同僚が言う。同時にもう一人の同僚が、日本酒を片手にいそいそと彼女の隣の席へ移動した。  彼女のあからさまに嫌そうな顔が、同僚の方を向く。 「なあ坂口、教えろよ」  その言葉に坂口はひとつため息をつくと、メニューへ目を落とす。丁度来た店員からお通しとお冷やを受け取り、取りあえず生ひとつ、と注文してからようやく答えた。 「……なんですか? 今プライベートなんですけど」 「お前ら仲良いんだから知ってんだろ。小宮の結婚の理由。遺産目当てだったんだろ? 旦那死んで、いくらもらえんのかねえ。億とか?」  酔っているとはいえ馬鹿なやつだな、と思った。  案の定、坂口はその手に持っていたお冷やを勢いよく同僚の顔にぶちまけた。  一瞬、時が止まる。同僚も、深夜帯で数の少ない他の客たちも、固まって坂口たちを見つめた。 「死んでくださいよ」  坂口がすっぱりと言い放つ。  その後は、もう大乱闘だった。もちろん居酒屋は追い出された。  同僚二人はこのまま居酒屋をハシゴする気も起きず、しかし家までのタクシー代を払うのも馬鹿らしいと言って、会社に戻っていった。  俺は会社で雑魚寝するよりは一時間かけて歩いて帰った方がマシだったので、彼らと別れた。  その道中で、同じ方向に坂口が歩いているのに気付く。  
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