やたらと狭くて広い部屋

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やたらと狭くて広い部屋

読み終わった。 涙が止まらない。 私は十年以上も彼女の病気に気がつけなかった間抜けなのだ、どんな恨みつらみが書かれているかと正直怖かった。 ところが彼女の手紙は私への愛で溢れていた。 「君は...」 文末に「愛してるは言わない」と書いてあった。 「卑怯だから」と...。 「卑怯だよ...」 もっと愛してると言わせてほしかった。 どうせなら死ぬ前に言ってほしかった。 「愛してるよ。」 妻は何も言わない。 だけど、彼女が何を言っているか私にはよく分かる。 「私も。」 きっとそう言ってくれているに違いない。 六畳の部屋にはダブルの布団は大きすぎて、部屋がやけに狭く感じる。 だけど、今日は妻の笑い声がない。 とても広く感じる。 私は妻が作ってくれた夕食を布団の横へ運んできた。 「美味しいよ。」 食事をしながら妻に言ったのは何年ぶりだろうか...。 「君の料理が美味しいから、立派なメタボ腹になってしまったじゃないか。」 これからはダイエット食を作ってもらおうと思っていたのに... 「...本当に美味しくて困るよ。」 彼女の最後の料理はいつもよりしょっぱかった。 彼女も泣いていたのかな? 私の涙のせいかな? いずれにしても、いつも通り美味しかった。 食器を片付けて、彼女の隣に横たわった。 死体の横だというのに、何故だろうね。 怖くないんだ。 今夜は君の隣で眠るよ。 これは私の布団だからね。 本当は君と一緒に寝たかったからダブルの布団をリクエストしたんだよ。 君も本当はそうだったんじゃないかな? もっと早く素直になれば良かった。 つまらない意地を捨てて「子どもは苦手だから」と言ったあとに、「だけど君とは一緒に寝たい」と言っておけばよかった。 「もう少し広い布団にしたら、あなたも寝やすくなるんじゃないかしら?」 君がそう言ってくれた時に言えていたら、君と二人で布団を温めることができたのかな? だいぶ秋めいてきたせいかな? 私一人の体温じゃ今日は寒いみたいだ。 長くいると、夫婦って難しいね。 本当のことが言えなくなるよ。 今夜は君の隣で眠るよ。 今夜は素直になるよ。 「ずっと君と一緒に寝たかったんだ。」
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