裸婦の絵

　行きつけの喫茶店にはたくさんの絵が飾られている。
　その中に油絵の裸婦像があるのだが、この半月ばかりでまったく違う絵になった。
　最初は確かに裸婦が描かれていたのに、ある日気づいたら下着を身につけていて、そこからどんどん衣装が増え、今はむしろ厚着の女性図といた印象だ。
　だけどこの変化に気づいたのは俺だけらしく、マスターも他の常連客も、絵について何か言うようなことはない。
　だから俺も何も言わず、一人こっそりと原因は何かを考えていたが、店に通っている内に思い当たることができた。
　一ヶ月前からこの店でアルバイトを始めたウエイターくんは結構なイケメンなのだが、あの絵が変わり出したのは彼が働き出した頃からではなかっただろうか。
　さすがに気のせいだと思ったが、先日、ちょっとした思いつきで働くウエイターくんと絵の間に割り込むように立っていたら、背後にはあの絵しかないのに、後頭部に痛い程視線を感じたから、俺の勘は当たっているようだ。
　絵の中の女性にまで羞恥心を感じさせるなんて…世の中、男も顔だな。

裸婦の絵…完