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「ブライアンだ」
彼はすっと手を伸ばしてきた。
「ユキハル……、アイザワ」
握手を交わした瞬間、ブライアンが素早く手を引き、またキスを仕掛けてきた。
「おいッ」
「コーヒーがこぼれるぞ」
ブライアンに囁かれて、ユキハルの意識は持っていた熱いカップに飛んだ。その間にも彼の舌が侵入してきて、ユキハルは慌てた。
苦労して引きはがすと、ユキハルは乱暴に口をぬぐい、彼をねめつけた。
「呼びにくい名だな。日本人の名前はなんだってそう複雑なんだ。よし、レイモンドにしよう。今日からあんたはレイだ」
「なんでレイなんだ。本名と全く関係がない」
「俺の初めての相手が、そういう名前だったんだよ」
カップに口をつけながら、彼は上目遣いで試すようにユキハルを見た。
ユキハルはかすかに動揺しながら、高い背もたれのついたイスに座った。
「へえ、……そいつは光栄だな」
ユキハルがいくぶんかすれた声で言うと、彼は小さく笑い、カップを両手で包むようにしてコーヒーをすすった。長い前髪が一筋、その横顔にかかる。
彼の肌は白かった。生粋の黄色人種とは明らかに違う質感。形の良い鼻は冷たく硬質な感じに尖り、顎は細く鋭角で、頬にかけてのラインが繊細だった。
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