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 短い夏が過ぎ、イギリス屈指のリゾート地であるブライトンにも、寂しげな秋の気配が忍び込んでいた。海に向かい500メートルほど張り出した桟橋でも、日ごとに人の影が減ってゆくのがわかった。  目を離すと秋は、呆気ないほどの密やかさで通り過ぎていってしまう。それから途方もなく長く、重たい冬の空が、来る日も来る日も我々の頭上を覆うのだ。  そんな陰鬱で閉鎖的な光景が、脳裏に甘美な期待を残し、一瞬のちに去った。  街路樹の木漏れ日が、ゆらゆらと繊細な模様を映し出すペイヴメントを、ユキハルは少し俯きがちに歩いていた。絡められた腕と、ことさらに押し付けられた、豊満な胸の感触がやけに重い。  DESPERATEという単語が浮かんだ。  ユキハルの状況は確かに「絶望的」だったが、その時に思い浮かべていたのは、真っ赤なランジェリー姿の太った女が、肉を揺らしながら「死にもの狂いで」走ってくる場面だった。
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