1300人が本棚に入れています
本棚に追加
/1457ページ
第一話 「スタート地点で点滴を」
開け放たれた窓から、心地よい陽気が枕元まで流れてくる。
呼吸器をつけて眠る少女の髪が、春風にそよいだ。
陽光に艶やかな黒髪が濃紺にきらめく。
それでも少女は目を覚まさない。中学三年生のころから、もう三年も目を覚ましていない。
同じとき、違う場所。
開け放たれた窓から、甘い香りの春風が教室の奥まで流れてくる。
それでも、俺は春の陽気にまどろんでなどいられない。
今週から俺は大学生を始めたからだ。
正確には四月一日からなのだろう。
しかし、俺は入学式前日にこれまでのストレスが祟って神経性の急性腸炎に罹り、一週間を病院で過ごした。
その間に学科ごとのオリエンテーションがあったらしい。
先生や先輩が中心になって、新入生の人間関係を作ったり、大学生として必要な知識を身につけたりさせるオリエンテーションが!
楽しいキャンパスライフを送るために、他の奴らがスタートダッシュをきめているとき、俺はスタートラインでずっと点滴を眺めていた。
初めて大学に登校したとき、なぜか周りの奴らがみんな仲良くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!