桜の王子様Ⅲ

1/30
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

桜の王子様Ⅲ

ずっと、気になっていた。 今日の美華さんは、どこか気だるげだ。 ぼーっとしているかと思えば、 ハッと我に返って、慌てて動き出す。 ・・・何か悩み、あるのかな。 「美華さん」 「なに?那智くん」 「あの・・・どこか具合、悪いんですか?」 訊ねると、美華さんは力なく笑った。 「ちょっとね。寝不足かも」 寝不足・・・。 よかった。病気とかじゃないんだ。 安心した反面で、俺はふと思う。 寝不足ってことは、夜眠れなかったってことで。 夜はいつも旦那さんである彬さんと一緒だから。 つまり・・・ 「こら、那智くん!」 「うぇ!?」 美華さんが俺のほっぺをつねる。 「変な想像したでしょ!」 「ひ、ひてないれす」 「嘘。顔真っ赤じゃないの」 「ふぇ・・・?」 「・・・まあ、しょうがないっか。那智くんも年頃の男の子だもんね」 美華さんが笑いながら裏の方へ行く。 「・・・・・・」 年頃の男の子、だって。 やっぱり美華さんにとって、 俺はその程度の存在なんだよね。 恋愛対象にも入らない、 ただの男の子。 まいったな。 美華さんにつねられた頬が、 痛くて・・・くすぐったい。 ドキドキが、治まらない。 「っ!?」 そのとき、 裏の方で大きな物音がした。 ・・・美華さん! 慌てて向かうと、 ダンボールの側に美華さんが倒れていた。 「美華さん!」 「・・・・・・っ、あ」 うつ伏せている美華さんを、急いで抱きかかえる。 意識はあるみたいだ。 「美華さん、大丈夫ですか!?」 「あ・・・うん、ちょっと・・・力が抜けて」 弱々しく笑う美華さん。 「ほら、閉店まであとちょっと・・・だから、戻って、那智くん」 「で、でも」 「彬さんが配達から戻ったら・・・・・・あたしは上がるから」 「・・・っ」 そんなの、嫌だ。 ここに美華さんを置いて戻るなんて、したくない。 彬さんに任せるんじゃなくて、 ――俺が、そばにいたい。 「美華さん・・・」 「な・・・な、ち・・・くん?」 何かが込み上げてきて、我慢できなくて、 気がつけば、 美華さんを強く抱きしめていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!