第54回 お店(たな)者

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第54回 お店(たな)者

『どぶどろ』(半村良、扶桑社文庫) ▽あらすじ 『どぶどろ』は、7つの短編と1つの中編から成る。7つの短編で描かれた事柄や登場人物が、すべて伏線となって、最後の中編「どぶどろ」に収斂(しゅうれん)されていく体裁となっている。  8編のタイトルを並べておこう。「いも虫」「あまったれ」「役たたず」「くろうと」「ぐず」「おこもさん」「おまんま」「どぶどろ」――どぶの臭いが漂い流れ、貧乏たらしい暮らしを連想させるタイトルばかりだ。はなっから、作者には勧善懲悪の物語を編むつもりはないらしい。  最後に置かれた中編「どぶどろ」の主人公は、からかい半分に「この字の平吉」と呼ばれる20歳の若者。銀座町屋敷の下僕であり、一流の戯作者・山東京伝(1761~1816)の従者をも兼ねている。「この字」というのは、蟹股(がにまた)だった平吉を見て京伝がつけたあだ名だ。  身体的ハンディを負っている平吉は、女にもてることはすっぱりとあきらめ、俳句をたしなんでいる。通人として名の通った京伝の、薫陶よろしきを得たらしい。「この字」のあだ名をもじって、ひそかに「孤人」の俳号を使っている。     
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