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墓参り
長く故郷を離れていたが、久方ぶりに戻り、墓参りをした。
二親はとうになくなっていて、兄弟もいない。だから、俺が放置していた墓は随分荒れ果てていることだろう。
そう思っていたのに、予想とは裏腹に墓はとても綺麗だった。
墓石には苔一つなく、周辺もきちんと掃除がされている。立派な花も活けられていて、実に綺麗だ。
いったい誰が管理をしてくれているのだろう。近所の人がしてくれているならお礼をしないと。
「もしかして…◯×くん?」
ふいに声をかけられ、振り向くと、そこには俺が実家暮らしをしていたころよくお世話になった、隣家のおばさんが立っていた。
ちょうどいいと思い、世間話のついでに誰が墓の世話をしてくれているのか尋ねる。すると思いもしない答えが返ってきた。
「誰って、週一のペースでお母さん来てるじゃない。あの子は仕事が忙しいっていつも言ってるけど、一緒に暮らしてるのに知らなかったの?」
その後の話は、もうろくに俺の耳には入らなかった。
母親は俺が社会人になった翌年に亡くなっている。葬式にはおばさんも参列してくれた。それは事実だ。
なのに毎週母親が墓に来てるって? 普通なら何の冗談だと思うところだが、実際墓は綺麗だし、亡くなった母親はとても綺麗好きな人だった。
そうでしたと適当に相槌を打ち、おばさんと別れるために墓地を離れた後、少しよそで時間を潰してから俺はもう一度墓に戻った。
母さん。ろくに墓参りもできないような息子でごめん。でもこれからは、毎週は無理でも、なるべく時間を作って墓参りに来るから。掃除もその時きちんとする。
もちろんそんな頻度じゃ綺麗好きの母さんは不満かもしれないけれど、俺、精一杯頑張るから…母さんはあの世でゆっくりしててよ。
墓に手を合わせ、強く強く心でそうつぶやく。そんな俺の耳にどこからか『判った』と、懐かしい声が聞こえた。
墓参り…完
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