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「僕、遼一みたいなの、嫌いじゃないんだよね。むしろ好き」
「俺ですか?」
指の輪郭をなぞられる。授業中に先生に起こされたことを思い出す。
「めちゃくちゃにしてくれそうだしね」
「それ、テク無しって言われてるみたいです」
「違う。好きな人のことすごく欲しがるタイプでしょ」
「……深沢さんの代わりにはなりませんよ」
切れ長の一重の目がすっと細められた。
「……何か裕貴さんの気持ち、ちょっとわかる気がする」
「何ですか?」
「裕貴さんは煽って引く。遼一は飴とムチ」
よくわけのわからない言葉に首を傾げる。
「何ですか? それ」
「裕貴さんは抱かれたいけど我慢する。遼一は離れそうで離れない」
重ねられた手の熱が離れていく。どこか遠くを見つめるその目は寂しそうで、一瞬、先生を思い出させた。
「ギリギリのところでの恋愛は互いを縛りやすくするんだよ」
「百合さん」
「わからなくっていいよ。面倒くさいこと」
彼はまたグラスのワインを一飲みにした。
「でも、あまり裕貴さんを追いつめないであげてね」
店を出た後、百合さんは酔ってしまったのか、俺から離れなかった。身体全体でもたれるようにしているから、つい心配で部屋まで送ることにした。先生よりも更に小さくてかわいらしい百合さんを、もし先生がいなかったら、などと少しでも考えてしまう自分は本当にバカだと思う。
「……ねぇ、しようよ」
そんな気持ちを見透かしたように、百合さんは俺の腕を引く。深沢さんのことを好きなのに、どうしてこの人は他人に手を出そうとするのだろう。そこで考える。先生が俺を好きだとしよう。なぜ先生は深沢さんを欲しがるのだろう。快感? 寂しさ? 焦り? そのどれもが当てはまっていて、当てはまっていないようで、更に頭を悩ませる。
「百合さんの家、教えてください」
「……遼一……」
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