指輪

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それは、突然の言葉だった。 ー私たち、別れた方がいいと思うのー 妻が口にしたその言葉。 僕には、理解できないでいた。 浮気をしたわけでもない。 給料は多くないけど、少なくもない。 …子供がいないから?いや、作ろうとしてないわけでもないしこればっかりはタイミングのせいだと思う。 「どうして?」 「わからないの?」 「わからない…君が嫌がることした?」 「……。」 そこで、妻は口をつぐんだ。 「もしかして、好きな人が出来た?」 「違う、そんな人いない。」 「…僕が悪いなら、謝るよ。ごめん。」 「わからないのに謝られても、意味がないよ。」 妻は、それだけ言い残して『離婚届』と『指輪』をテーブルの上に置いた。 「ちょ、ちょっと、待ってよ!!」 僕の言葉に振り返った妻は、何故か泣きそうな顔で微笑んでいた。 何も理解できないまま、テーブルの上に置かれた『離婚届』と『指輪』を眺めていた。 僕が何かをしてしまったのかもしれな。一体何をしてしまったのだろう。僕には、本当にわからなかった。 遠くで響く扉の閉まる音が、とても冷たい気持ちにさせた。 テーブルの上の物に触れることができないまま、二人の寝室に僕は向かった。寝室のクローゼットの一番下に入っている二人のアルバム。 妻が楽しうに作っていたのを思い出す。 青い表紙のアルバムは、付き合っていた頃のもの。 何十枚も台紙を足したせいで、重くなったアルバム。二人で行った思い出がたくさん詰まっていた。バカみたいに大きな口を開けながら笑っている妻が好きだった。 アルバムの最後は、この家のリビングで二人で頬っぺたがくっつくぐらい近づいて撮った写真だった。 僕が妻にプロポーズをした時のもの。
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