加賀編 「初夜は蜜の味」

2/9
3825人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
 この部屋に来るのが初めてならわかるが、そうじゃない。 「今日からずっと、加賀さんと一緒に暮らすんだって思ったら、すごいドキドキして、その、暴走しそうで」 「暴走」  反復する俺を、倉知がゴクリと唾を飲み込んで見下ろした。 「加賀さん」  倉知が真面目な顔で、俺を見据える。綺麗にお辞儀をすると、少し気取ったような表情で言った。 「ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」 「おう、こちらこそ。よろしくね」  頭を撫でてやると、肩の力を抜いたのがわかった。照れくさそうに頭を掻きながら目を泳がせて訊いてくる。 「こんな時間だし、明日平日だし、もう寝ます? よね?」  何かを期待したような訊き方に、つい笑ってしまった。 「したい?」  首を掻きながら訊いた。倉知が顔を赤らめて俺から目を背ける。初めてでもないし、泊まった回数も数知れず。でも、なんとなく気持ちはわかる。 「なんか初夜みたいな感じするもんな」 「しょ、初夜」  初夜、というフレーズに食いついた倉知が急いでこっちを見た。 「加賀さん」 「うん」 「その格好、誘ってますか?」     
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!