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差し出そうとする俺の手首を、横から誰かが掴む。
「待て待て、倉知」
丸井だ。俺の耳元に顔を寄せると、二人に聞こえないようにこそこそと囁いてくる。
「いいのかよ、加賀さんに渡さなくても」
「え、でも、あの人こんなの欲しがらないよ」
第二ボタンを欲しがる乙女な加賀さんは想像できない。多分、そんな発想はない。
「女子に渡したって知ったらヤキモチ妬かない?」
「ヤキモチ」
こんなことで嫉妬する人じゃない。というか、むしろ嫉妬してみて欲しい。
「あの、無理ならホント、いいんで……。変なこと言ってすいません」
睦美が消え去りそうな声で、うつむいたまま言った。
「いいよ。手、出して」
顔を上げた睦美が、おずおずと手のひらを上に向けた。そこにボタンをのせると、嬉しそうに顔を輝かせ、勢いよく頭を下げて、瑞樹とくっつきながら教室を出て行った。
「あーあ、いいのかなー」
「バレンタインにチョコ貰ったって言ってもこれっぽっちも反応しない人だぞ」
「貰うのとあげるのと違うじゃん。第二ボタンは一個しかないんだぞ。どうすんだよ、ちょうだいって言われたら」
「加賀さんがそんなこと言ったら」
少し考えて、口元を覆う。
「可愛い」
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