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洋服の胸元をばたつかせる倉知の父に、頭を下げる。
「無駄に厳つくてすいません」
「なんか納得だわ。ああいう人に育てられたら、こうなるよな」
俺の肩をポンポンと叩いて、「中に入るぞ」と号令をかける。ぞろぞろと家に戻る家族に気づいていないのか、倉知は車が去っていったほうをずっと見ていた。
「倉知君、入らないの?」
「入ります」
振り返った倉知の目が赤い。
「ごめんね」
思わず謝ると、倉知は苦笑した。
「なんで謝るんですか」
「いちいち大げさだから、あの人」
「そんなことないです。やっぱり、すごい人です」
ふう、と息をついて、突然自分の顔を両手で打った。バチン、と痛々しい音が夜空に響く。倉知はよくこういうことをするからもう驚かない。
「加賀さん」
「うん」
「俺、本当に、大事にします」
「時計?」
「加賀さんをですよ。一生大事にします」
俺の目をじっと見て宣言する倉知は、頼もしくて、大人の男の顔をしていた。
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