3824人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
加賀編 「初夜は蜜の味」
二人で倉知家を出て、マンションに帰った。
今まで何度もそういうことがあったが、まるで今生の別れのように、抱き合って別れを惜しむ倉知と家族を見ていると、本当にこれでいいのか、と思えた。
大学生が家を出て一人暮らしをすること自体、珍しくもなんともない。でも、俺と出会わなければ倉知は実家から大学に通っていただろう。
仲の良い家族を引き裂いた気分になる。口を開けば謝罪の言葉が出てしまいそうで、マンションに着くまでずっと、黙っていた。
倉知も口数が少ない。寂しいのかもしれない。
部屋に入ると、零時に近かった。明日も仕事だし、風呂に入って寝よう。
寝室でスーツを脱いでいる間、倉知はリビングのソファに座って呆けていた。やっと実感が湧いたのだろう。賑やかだった実家を離れ、これからは二人で、ここで暮らすことになる。
「倉知君」
頭上から声をかけ、髪を撫でる。
「もうホームシック?」
「えっ?」
倉知が俺を振り仰ぐ。
「寂しい? 帰りたい?」
ゆっくり訊ねると、倉知がきょとんとした。それから慌てて立ち上がった。
「違います、あの、俺、緊張してて」
「緊張? なんで?」
最初のコメントを投稿しよう!