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俺は頭から布団をかぶると、くるりと背を向けた。背後から剛史が慌てたように俺の名前を呼ぶが、寝たふりをする。こんなにやけた顔、恥ずかしくて見せられるか。
「ーー大好きだよ。智樹」
耳にささやくように告げられた言葉に、俺は思わず泣きそうになった。
夢みたいだと思っているのは、俺のほうだ。
剛史がそっと包みこむように俺を抱きしめる。
「おやすみ智樹」
優しい、溶けるような声が闇に落ちた。
そのとき、俺はなぜか昼間の青虫を思い出していた。
ーー俺が見殺しにした青虫。
普通に考えたら、誰かが助けてくれるなんて、おとぎ話のように現実味がない。
けれど、剛史がこんな俺を好きになってくれたみたいに、ひょっとしたら、万が一の出来事だって起こるかもしれない。起こりうるのだと、たまには信じたっていいじゃないか。
幸福な夜のかけらが、あたたかな滴となって一粒俺の胸に落ちる。滴は波紋となって、俺の心を震わせた。
明日、目が覚めたら、ザキにメールしよう。ごめんて謝って、また遊びにこいよと伝えよう。剛史のことを話したら、あいつはどんな顔をするかな。
「・・・・・・おやすみ」
俺は聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、剛史の腕をぎゅっと胸に抱いた。
end
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