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テールランプ
山中で道に迷った。
ナビもまともに働かず、右往左往している間にどんどん日が暮れていく。
夜の山道をこのまま走り続けるより、車を停められる場所を探して車中泊をした方がいいだろうか。
そんなことを考えていたら、前方にぼんやりと赤い二つの輝きが見えた。
間違いなく、それは車のテールランプだった。
少しずつ遠くなる様子からして、前方には道があり、そこを走っている車がいるらしい。
できたらちやんと山を下りたい。その思いで、俺は暗がりに見えるテールランプを追った。
距離はそこそこ離れているが、辺りはひたすら暗いばかりなので、赤いランプがはっきりと見える。
ゆるいカーブを左へ。次は右へ。
その動きを目で追いかけ、車を走らせている途中に気がついた。
この山道で、どうして俺はあのテールランプを見失わないんだろう。
今まで走っていた道の様子を考えたら、いくらランプが目立つものでも、木々や曲がり道の角度で見えなくなる瞬間が必ずある。なのに前方のテールランプは、決して俺の視界から消えることなく存在し続けているのだ。
このままついて行ったらとんでもないことになる。そんな危機感を覚え、俺は車をゆっくりと走らせながら周辺を窺い、もし後続車が来たとしてもなんとか追い越してもらえる程度に開けた場所を見つけ、そこに車を停車させた。
その翌朝。
車内で目覚めた俺は、見回した周辺の様子に自分の判断の正しさを実感した。
俺の車がある場所も、すでに道と呼ぶには怪しい荒れ具合だったが、前方はさらに木々の生え方や地形の荒さが際立って、先へ進んで行くなど考えられないような地形だったのだ。
そして何より、俺の車が進んで来た道程には、途中で枝を薙ぎ払ったり蔓を引きちぎったりした痕跡があったが、ここから先には、車どころか人が立ち入った形跡も存在していなかった。そう、つまり、前方に車など存在してはいなかったのだ。
夕べ俺が目にした、テールランプにしか見えなかった赤い光は何だったのか。
考えても答えは出ないが、ついて行くことをやめた俺の判断は完全に正しかったようだ。
テールランプ…完
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