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砂糖菓子のパラソルでは寄り添えない(1)
薄暗い路地で、彼は、くるくると回っていた。降りしきる雨の中、両手を真横に伸ばして、のびやかに回っていた。
先ほど生徒会室から持ち出した折りたたみ傘はどこにやったのだろうか? そう思ってから気がついた。彼の右手が閉じたままの傘を握りしめていることに――。
ひょっとして、勉強疲れでおかしくなってしまったのだろうか。不安が胸をきゅっと締め付ける。けれど、不思議と彼の表情にはストレスからくる暗い陰りはない。むしろ誇らしげな笑みすら浮かべていた。
しばらくして奇行を止めた彼は、「よし、行くか」とだけ言い残して、五十海ゼミナールという個人塾が入っている小さなビルの中に消えていった。
後には私と、答えのでない問題だけが、取り残されることになった。
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